ゲーミングPCにおけるストレージアクセス最適化:Windowsファイルシステムとドライバの関わり、パフォーマンス影響、トラブルシューティング
はじめに
ゲーミングPCの性能は、CPU、GPU、メモリといった主要コンポーネントのスペックによって大きく左右されますが、ストレージ(SSD/HDD)の性能と、それを制御するOS(Windowsファイルシステム)およびドライバの設定もまた、ゲーム体験に顕著な影響を与えます。特にゲームの起動時間、シーンのロード時間、オープンワールドゲームなどでのテクスチャストリーミング時のスタッター(一瞬の画面停止)といった問題は、ストレージアクセス性能がボトルネックとなっている場合に発生することが少なくありません。
本記事では、ゲーミングPCにおけるストレージアクセスの最適化に焦点を当て、Windowsのファイルシステムに関連する設定、ストレージコントローラードライバとの連携、そしてこれらの要素がゲームパフォーマンスに与える具体的な影響について解説します。さらに、ストレージアクセス関連のトラブルが発生した場合の診断方法と、具体的な解決策について詳細な情報を提供いたします。
Windowsファイルシステム(NTFS)とゲーミングへの影響
Windowsで一般的に使用されるファイルシステムであるNTFSは、ファイル管理やセキュリティ機能に優れていますが、特定のデフォルト設定がゲーミングパフォーマンスに影響を与える可能性があります。
NTFS圧縮
NTFS圧縮は、ディスク容量を節約するためにファイルを圧縮する機能です。ゲームファイルに対してこれを有効にすると、ディスク上のサイズは小さくなりますが、ファイル読み込み時にリアルタイムで解凍処理が必要となり、CPUに余分な負荷がかかります。最新の高速なマルチコアCPUであればその影響は比較的小さい場合もありますが、多くのゲーム、特にCPU負荷の高いゲームにおいては、パフォーマンスの低下やスタッターの原因となる可能性があります。
- 影響: ディスク容量節約と引き換えにCPU負荷が増加、ファイルアクセス速度が低下する可能性。
- 推奨設定: ゲームがインストールされているフォルダや頻繁にアクセスするゲーム関連ファイルに対しては、NTFS圧縮を無効にすることを強く推奨します。これはフォルダまたはファイルのプロパティから設定できます。
ファイルインデックス作成サービス (Windows Search Service)
Windowsは、ファイル検索を高速化するためにディスク上のファイルにインデックスを自動的に作成します。このインデックス作成プロセスはバックグラウンドで実行されますが、大量のファイルに対して頻繁に行われる場合、ストレージI/O(Input/Output)リソースを消費し、ゲーム中のディスクアクセスと競合する可能性があります。これにより、ゲームのロード時間やスタッターが悪化することがあります。
- 影響: バックグラウンドでのディスクI/O発生によるゲーム中のパフォーマンス低下、I/O競合。
- 推奨設定: ゲーム用ドライブ全体やゲームフォルダに対して、インデックス作成を無効に設定することを検討できます。これはドライブのプロパティまたは特定のフォルダのプロパティから行えます。また、Windows Searchサービス自体を無効にするという選択肢もありますが、これはWindows全体の検索機能に影響するため、トレードオフを理解した上で行う必要があります。
ディスクキャッシュポリシー
Windowsはパフォーマンス向上のためにディスクキャッシュを利用します。書き込みキャッシュ(Write Cache)は、データが実際にディスクに書き込まれる前にメモリに一時的に保持することで、書き込み処理を高速化します。読み込みキャッシュ(Read Cache)は、最近アクセスしたデータをメモリに保持することで、再アクセス時の速度を向上させます。
- 影響: キャッシュの適切な利用はパフォーマンスを向上させますが、書き込みキャッシュの遅延書き込み設定は、停電時などにデータ損失のリスクを高める可能性があります。ゲーミングにおいては通常、デフォルト設定(書き込みキャッシュ有効、遅延書き込み有効)のままで問題ありませんが、特定のトラブルシューティング時に確認することがあります。
- 設定確認: デバイスマネージャーから該当するストレージデバイスのプロパティを開き、「ポリシー」タブで設定を確認できます。
デフラグとTRIM
ハードディスクドライブ(HDD)の場合、ファイルの断片化が進むと読み込み速度が低下するため、定期的なデフラグ(最適化)が必要です。一方、SSDは断片化の影響を受けにくく、デフラグはSSDの寿命を縮める可能性があるため推奨されません。SSDの場合はTRIMコマンドによって、削除されたデータの領域をコントローラーに通知し、書き込みパフォーマンスを維持することが重要です。
- 影響: HDDではデフラグ不足による性能低下。SSDではTRIM不足による性能低下または過度なデフラグによる寿命低下。
- 推奨設定: Windowsの「ドライブのデフラグと最適化」ツールを使用して、HDDは定期的なデフラグ、SSDは定期的なTRIM(OSが自動で行います)が設定されていることを確認します。通常はデフォルトの自動最適化設定で問題ありません。
OSとストレージドライバの連携
ストレージデバイス(SSD/HDD)は、マザーボード上のストレージコントローラー(SATA、NVMeなど)に接続され、そのコントローラーをOSがドライバを介して制御します。このドライバの選択や状態は、ストレージ性能に直接影響します。
AHCI/NVMeドライバの重要性
モダンなSSDはAHCIまたはNVMeインターフェースを使用しており、それぞれのプロトコルに対応したドライバが必要です。Windows標準のMicrosoft製AHCI/NVMeドライバは汎用性が高く安定していますが、マザーボードメーカーやチップセットメーカー(Intel, AMDなど)が提供する専用ドライバの方が、特定の環境でより高いパフォーマンスや安定性を提供する場合があります。
- 影響: ドライバの性能や互換性によって、ストレージの最大速度やレイテンシ(遅延)が変動する。古いドライバや汎用ドライバがボトルネックとなる可能性。
- 推奨設定: 基本的にはWindows標準ドライバで十分な性能が得られますが、ストレージ性能に疑問がある場合や、メーカー推奨のドライバが存在する場合は、メーカー提供ドライバへの更新を検討する価値があります。ドライバのインストールは通常、チップセットドライバやストレージコントローラーのドライバとして提供されます。インストールには製造元のウェブサイトを参照してください。
DMA/PIOモード
古いシステムや特定のトラブルシューティングケースで遭遇することがありますが、ストレージデバイスが誤ってPIO(Programmed Input/Output)モードで動作している場合、CPUがストレージアクセス処理を直接行う必要があり、極端に性能が低下します。本来はDMA(Direct Memory Access)モードで動作し、CPUを介さずにメモリとストレージ間で直接データ転送が行われます。
- 影響: PIOモードでの動作は、ストレージ性能を著しく低下させ、CPU使用率を異常に高める。
- 確認と解決: デバイスマネージャーでIDE ATA/ATAPIコントローラーのプロパティを確認し、PIOモードになっていないか確認します。通常はMulti-Word DMAまたはUltra DMAモードで動作している必要があります。もしPIOモードになっている場合は、コントローラーのドライバを再インストールするか、デバイスを一度削除して再認識させることで解決する場合があります。
ストレージ関連のOSサービス・機能
Windowsには、ストレージに関連する様々なバックグラウンドサービスや機能が存在し、これらがゲームパフォーマンスに影響を与えることがあります。
Superfetch / Sysmain / Prefetcher
これらの機能(Windows 10以降ではSysmainという名称)は、ユーザーのアプリケーション使用パターンを学習し、次に使用される可能性のあるアプリケーション関連データを事前にメモリにロードしておくことで、起動時間を短縮します。ゲームの起動には効果があるかもしれませんが、ゲーム中にディスクI/Oを発生させ、スタッターの原因となる可能性が指摘されることがあります。
- 影響: アプリケーション起動高速化と引き換えに、ゲーム中の予期せぬディスクI/O発生。
- 推奨設定: パフォーマンス問題が発生している場合は、Sysmainサービスを無効にしてみる価値があります。ただし、SSD環境では、Superfetch系の機能はSSDに最適化されており、無効化しても大きなパフォーマンス差が出ない場合や、逆に一部のゲームのロード時間がわずかに増加する場合もあります。環境によって効果が異なるため、無効化する場合は自身の環境でテストを行うことを推奨します。サービスの無効化はservices.mscから行えます。
Background Intelligent Transfer Service (BITS)
BITSは、ネットワークの利用状況を考慮しながら、バックグラウンドでファイルを転送するためのサービスです。Windows UpdateやMicrosoft Storeからのアプリダウンロードなどで利用されます。これがゲーム中にアクティブになると、ネットワーク帯域だけでなく、ファイルの書き込みのためにディスクI/Oも発生させ、パフォーマンスに影響を与えることがあります。
- 影響: ゲーム中のディスクI/Oおよびネットワーク帯域の消費。
- 推奨設定: BITSサービスを完全に無効にするとWindows Updateなどに影響が出るため推奨されません。ゲーム中にダウンロードが開始されないように、Windows Updateの設定を見直したり、ゲームプレイ中は通信が発生する可能性のあるアプリケーションを終了させたりすることが基本的な対策となります。
具体的な問題とトラブルシューティング
ゲーミングPCでストレージアクセスに関連する問題が発生した場合、以下の手順で原因を診断し、解決策を適用することを推奨します。
考えられる症状
- ゲームの起動時間やシーンのロード時間が異常に長い
- ゲーム中に不定期なスタッター(カクつき、一瞬の停止)が発生する
- タスクマネージャーでディスク使用率が頻繁に100%に張り付く
- テクスチャが遅れてロードされる(テクスチャポップイン)
原因の可能性
- OSのバックグラウンド処理(インデックス作成、Superfetch/Sysmain、デフラグ、Windows Searchなど)
- サードパーティ製ソフトウェアによるディスクアクセス(セキュリティソフトのスキャン、クラウドストレージ同期、別アプリケーションのアップデート/ダウンロード)
- ストレージドライバの問題(古い、汎用ドライバ、特定のゲームとの相性問題)
- ファイルシステム自体の論理的な破損やエラー
- ストレージデバイス自体のハードウェア問題(劣化、故障の兆候)
- システムリソースの競合(CPUやメモリ不足によるI/O待ち)
具体的な確認方法
- タスクマネージャーでディスク使用率とプロセスを確認:
Ctrl + Shift + Esc
でタスクマネージャーを開き、「パフォーマンス」タブでディスク使用率を確認します。使用率が高い場合は、「プロセス」タブに切り替え、ディスク使用率でソートしてどのプロセスが大量のディスクI/Oを行っているかを特定します。ゲーム本体、OSサービス、または他のアプリケーションが原因であるか絞り込めます。 - リソースモニターで詳細なI/Oアクティビティを確認: タスクマネージャーの「パフォーマンス」タブの下部にある「リソース モニターを開く」をクリックし、「ディスク」タブを選択します。ここでは、どのプロセスがどのファイルに対して読み書きを行っているか、具体的なI/O速度などをリアルタイムで詳細に確認できます。これにより、ゲーム中に予期しないファイルアクセスを行っているプロセスを特定しやすくなります。
- イベントビューアーでエラーログを確認:
Windowsキー + R
でeventvwr.msc
を実行し、イベントビューアーを開きます。「Windowsログ」→「System」で、ストレージ(disk, storahci, nvmeなど)やファイルシステム(NTFS)に関連する警告やエラーログがないか確認します。ハードウェア的な問題やドライバエラーの兆候が見つかることがあります。 - ストレージのS.M.A.R.T.情報を確認: CrystalDiskInfoなどのツールを使用して、ストレージデバイスのS.M.A.R.T.(Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technology)情報を確認します。これにより、ストレージの健康状態やエラー発生回数などが把握でき、ハードウェア的な寿命や故障の兆候がないか判断できます。
- デバイスマネージャーでストレージドライバを確認:
Windowsキー + X
から「デバイス マネージャー」を開きます。「IDE ATA/ATAPI コントローラー」と「記憶域コントローラー」、そして「ディスク ドライブ」を展開し、それぞれのドライバが適切にインストールされているか、エラーが発生していないか確認します。ドライバのバージョンや提供元(Microsoft標準か、Intel/AMD/SSDメーカーなどか)もここで確認できます。 - パフォーマンスモニターでI/Oカウンタを監視:
Windowsキー + R
でperfmon.msc
を実行し、パフォーマンスモニターを開きます。ゲームを実行しながら、以下のカウンターを追加して監視します。PhysicalDisk(*)\% Disk Time
PhysicalDisk(*)\Disk Reads/sec
PhysicalDisk(*)\Disk Writes/sec
PhysicalDisk(*)\Avg. Disk Queue Length
これにより、ストレージがどれだけビジーであるか、I/O要求がどれだけキューに溜まっているかなど、詳細なパフォーマンスデータを収集できます。
具体的な解決策(手順)
診断結果に基づいて、以下の解決策を試行します。
- OSのストレージ関連設定の最適化:
- ゲームドライブやフォルダのNTFS圧縮を無効にする。
- ゲームドライブやフォルダのインデックス作成を無効にする。
services.msc
からSysmainサービスを一時的に停止または無効にし、ゲームパフォーマンスへの影響を確認する。services.msc
からWindows Searchサービスを無効にする(検索機能の低下を許容できる場合)。- 「ドライブのデフラグと最適化」ツールで、SSDに対してTRIMが有効になっているか、HDDに対してデフラグが適切に行われているか確認する。
- サードパーティ製ソフトウェアの停止/設定変更:
- タスクマネージャーやリソースモニターで特定された不要なバックグラウンドプロセスやサービスを一時停止または終了させる。
- セキュリティソフトウェア(ウイルス対策ソフトなど)のリアルタイムスキャンやスケジュールスキャンがゲーム中に実行されないよう設定を変更する。
- Dropbox, OneDriveなどのクラウドストレージ同期ツールや、ゲームクライアント(Steam, Epic Games Launcherなど)のバックグラウンドダウンロード/アップデート機能をゲーム中は無効にする。
- ストレージドライバの確認と更新/変更:
- デバイスマネージャーでストレージコントローラー(AHCI, NVMe)やディスクドライブにエラーがないか確認する。
- 現在インストールされているドライバがMicrosoft標準か、メーカー提供かを確認し、問題が発生している場合は逆のドライバを試す(例: Microsoft標準→メーカー提供、またはその逆)。ドライバの更新は、マザーボードメーカーまたはチップセットメーカーのウェブサイトから最新版をダウンロードして行います。可能であればクリーンインストールを検討します。
- デバイスマネージャーでIDE ATA/ATAPIコントローラーのプロパティを開き、デバイスがDMAモードで動作しているか確認します。もしPIOモードになっていた場合、ドライバの再インストールまたはデバイスの削除・再認識を行います。
- ファイルシステムのエラーチェックとシステムファイルの修復:
- コマンドプロンプトを管理者として実行し、
chkdsk /f X:
(Xはゲームドライブの文字)を実行してファイルシステムのエラーをチェックし修復します。システムドライブの場合は再起動が必要です。 - システムファイル自体に破損がないか、コマンドプロンプトを管理者として実行し
sfc /scannow
を実行します。問題が見つかった場合は修復が試みられます。 - より詳細なシステムイメージの修復には、DISMコマンドを使用します。コマンドプロンプトを管理者として実行し、
DISM /Online /Cleanup-Image /RestoreHealth
を実行します。
- コマンドプロンプトを管理者として実行し、
- ハードウェアの基本的な確認:
- SATA接続の場合、ケーブルが正しく接続されているか、可能であれば別のSATAポートやケーブルを試します。
- M.2 SSDの場合、スロットにしっかり装着されているか確認し、可能であれば別のM.2スロットを試します(チップセットやCPU直結など、接続先によってパフォーマンス特性が異なる場合があります)。
- CrystalDiskInfo等でS.M.A.R.T.情報に異常がないか再度確認します。多くのエラーや健康状態の低下が見られる場合、ストレージデバイス自体の故障が考えられます。
- クリーンブートによる原因特定:
- Windowsをクリーンブート(必要最低限のサービスとスタートアッププログラムで起動)して問題が解消するか確認します。これにより、OS標準以外のソフトウェアやサービスが原因であるか特定できます。手順はmsconfigを使用して行います。
まとめと推奨事項
ゲーミングPCにおけるストレージアクセスの最適化は、快適なゲーム体験のために重要です。Windowsのファイルシステム設定、ストレージドライバ、関連サービスは、ゲームのロード時間やスタッターに直接影響を及ぼす可能性があります。
- ゲームがインストールされているドライブやフォルダでは、NTFS圧縮とファイルインデックス作成を無効にすることを推奨します。
- ストレージドライバは、Windows標準またはメーカー提供のものを適切に選択し、最新の状態に保つことが重要です。パフォーマンスや安定性に問題がある場合は、ドライバの変更を検討してください。
- Superfetch/Sysmainサービスは、SSD環境ではパフォーマンス影響が限定的か、または無効化が逆効果になる場合もあるため、問題発生時のみ無効化をテストし、効果を確認した上で判断することをおすすめします。
- ゲーム中の不要なバックグラウンドプロセスやサービス、サードパーティ製ソフトウェア(特にセキュリティソフトやクラウドストレージ同期ツール)がディスクI/Oを発生させていないか、タスクマネージャーやリソースモニターで常に意識することが重要です。
- ストレージ関連のパフォーマンス問題やスタッターが発生した場合は、本記事で解説した診断手順(タスクマネージャー、リソースモニター、イベントビューアー、S.M.A.R.T.情報) を順番に行い、原因を特定することが解決への近道です。
これらの設定とトラブルシューティング方法を理解し、適切に適用することで、ゲーミングPCのストレージアクセス性能を最大限に引き出し、より快適でスムーズなゲーム体験を実現できるでしょう。自身の環境に合わせて設定を調整し、パフォーマンスの変化を確認することを推奨いたします。