ゲーミングPCにおけるResizable BAR / Smart Access Memoryの詳細設定:OS/ドライバの関与とパフォーマンス影響、トラブルシューティング
はじめに:Resizable BAR / Smart Access Memoryとは
ゲーミングPCのパフォーマンスをさらに追求するにあたり、近年注目されている技術に「Resizable BAR」およびAMDが提唱する同等の機能である「Smart Access Memory(SAM)」があります。これらの技術は、CPUがGPUのVRAM(ビデオメモリ)全体に効率的にアクセスできるようにすることで、ゲームのフレームレート向上やスタッタリング低減に寄与する可能性があります。
従来、CPUはGPUのVRAMの一部(通常256MB)にしか同時にアクセスできませんでした。Resizable BAR/SAMを有効にすることで、この制限が解除され、CPUとGPU間のデータ転送効率が向上します。この技術の効果は、使用するハードウェア構成、ゲームタイトル、ゲーム内の設定によって大きく変動しますが、特定のシナリオでは顕著なパフォーマンス改善が見られることが報告されています。
この技術を有効にするためには、単にGPUドライバをインストールするだけでなく、システム側の特定の要件を満たし、BIOS/UEFI設定やOS設定を確認・変更する必要があります。本記事では、ゲーミングPCにおけるResizable BAR / Smart Access Memoryの詳細な有効化手順、パフォーマンスへの影響、そして有効化や使用中に遭遇しうるトラブルシューティングについて、OS/ドライバ設定の観点から深く掘り下げて解説します。
Resizable BAR / Smart Access Memoryを有効化するための技術的要件
Resizable BARまたはSmart Access Memoryをシステムで有効にするためには、いくつかのハードウェアおよびソフトウェア要件を満たす必要があります。これらは相互に関連しており、一つでも満たされていないと機能が有効化されません。
1. ハードウェア要件
- CPU: AMD Ryzen 5000シリーズ以降、Intel Core i5/i7/i9(第10世代以降の一部モデル、第11世代以降全般)などが対応しています。具体的な対応CPUはマザーボードメーカーやCPUメーカーの情報を確認してください。
- マザーボード: 対応するチップセット(例: AMD 500シリーズ、Intel 400シリーズ以降など)を搭載し、Resizable BAR/SAMをサポートするBIOS/UEFIバージョンが必要です。多くのマザーボードでは、対応BIOSにアップデートする必要があります。
- GPU: AMD Radeon RX 6000シリーズ以降、NVIDIA GeForce RTX 30シリーズ以降などが対応しています。具体的な対応GPUはGPUメーカーの情報を確認してください。古いモデルの一部でも対応する場合があります。
2. BIOS/UEFI設定の要件
Resizable BAR/SAMを有効にするには、マザーボードのBIOS/UEFI設定で以下の項目を有効にする必要があります。設定項目の名称はマザーボードメーカーによって異なる場合があります。
- Above 4G Decoding: 有効 (Enabled) に設定します。これは、PCIeデバイスが4GB以上のアドレス空間を使用できるようにするための設定で、Resizable BARを有効にする前提条件となることが多いです。
- Re-Size BAR Support: 有効 (Enabled) に設定します。この項目がResizable BAR/SAMそのものの有効/無効を切り替えるメインの設定です。
これらの設定は、PC起動時に指定されたキー(通常はDeleteキーやF2キーなど)を押してBIOS/UEFI画面に入り、詳細設定メニューなどから変更します。設定変更後は、必ず設定を保存して再起動してください。
3. OSおよびストレージの要件
Resizable BAR/SAMは、PCI Expressの機能を最大限に活用するために、OSがUEFIモードで起動していること、そしてシステムドライブがGPT(GUID Partition Table)形式でフォーマットされていることを要求することが一般的です。
- UEFIモードでのOSインストール: Windows 10またはWindows 11はUEFIモードでインストールされている必要があります。レガシーBIOSモードでインストールされている場合、UEFIモードに変換するか、OSのクリーンインストールが必要になる場合があります。
- GPT形式のシステムドライブ: UEFIモードでのOSインストールは通常GPT形式のドライブに行われますが、念のため確認が必要です。MBR (Master Boot Record) 形式の場合、GPT形式に変換する必要があります。ただし、MBRからGPTへの変換にはリスクが伴うため、重要なデータは必ずバックアップしてください。Windows 10/11ではMBR2GPTツールを使用してデータを保持したまま変換できる場合がありますが、実行前には十分な調査と準備が必要です。
これらの要件は、Windowsのシステム情報やディスク管理ツールで確認できます。
- システム情報での確認: Windowsの検索バーに「msinfo32」と入力してシステム情報を開き、「BIOSモード」の項目を確認します。「UEFI」と表示されていればUEFIモードです。
- ディスクの管理での確認: Windowsの検索バーに「diskmgmt.msc」と入力してディスクの管理を開き、システムドライブ(通常ディスク0)を右クリックして「プロパティ」を選択します。「ボリューム」タブの「パーティションのスタイル」を確認します。「GUIDパーティションテーブル (GPT)」と表示されていればGPT形式です。
4. ドライバの要件
Resizable BAR/SAMの機能を利用するには、対応するバージョンのGPUドライバがインストールされている必要があります。GPUメーカーは、Resizable BAR/SAMに対応したドライバをリリースしています。
- 最新GPUドライバ: 使用しているGPUに対応した、Resizable BAR/SAMサポートを含む最新バージョンのドライバを、各メーカーの公式サイトからダウンロードしてインストールしてください。インストール時には、クリーンインストールオプションを選択することが推奨されます。
OS、BIOS、そしてドライバ。これらの要素が連携して初めてResizable BAR/SAMが正常に機能します。
Windows上でのResizable BAR / Smart Access Memoryの状態確認
すべての要件を満たし、設定を終えたら、Windows上でResizable BAR/SAMが正しく有効になっているかを確認します。確認方法はGPUメーカーによって異なります。
- NVIDIAの場合: NVIDIAコントロールパネルを開き、左下にある「システム情報」をクリックします。「ディスプレイ」タブの項目の中に「Resizable BAR」という項目があります。これが「はい」または「有効」と表示されていれば、Resizable BARは有効になっています。
- AMDの場合: AMD Software: Adrenalin Editionを開き、パフォーマンスタブの中の「アドバイザー」セクション、またはホーム画面のシステム情報などでSmart Access Memory (SAM) の状態を確認します。通常、「有効」またはそれに類する表示になります。
また、デバイスマネージャーからも間接的に確認できます。
- デバイスマネージャーでの確認: Windowsの検索バーに「devmgmt.msc」と入力してデバイスマネージャーを開きます。「ディスプレイアダプター」を展開し、使用しているGPUを右クリックして「プロパティ」を選択します。「リソース」タブを表示し、「大容量メモリ範囲」または「Large Memory Range」といった項目が表示されていることを確認します。Resizable BAR/SAMが有効な場合、この項目が表示され、大きなアドレス範囲が割り当てられていることが確認できます。ただし、この項目が表示されていてもResizable BAR/SAMが完全に機能しているかはGPUメーカーのツールで確認するのが最も確実です。
パフォーマンスへの影響:効果的なシナリオと注意点
Resizable BAR/SAMは、すべてのゲームやすべての環境でパフォーマンスを向上させる万能薬ではありません。その効果は以下のような要因に依存します。
効果が出やすいシナリオ
- 特定のゲームタイトル: CPUとGPU間の大量のデータ転送が頻繁に発生するゲーム、特にオープンワールドや複雑なシーンが多いゲームで効果が見られやすい傾向があります。
- CPUボトルネック: CPU性能がボトルネックになっている状況で、CPUがVRAMに効率的にアクセスできるようになることで、ボトルネックが緩和されフレームレートが向上する場合があります。
- 高解像度・高設定: GPU側の負荷が高い設定よりも、CPU側の負荷も比較的高くなるような設定(ただし極端なGPUボトルネック状態ではない)で効果が見られることがあります。
パフォーマンスが低下する可能性や注意点
- 特定のゲームタイトル: 一部のゲームでは、Resizable BAR/SAMを有効にすることでかえってパフォーマンスが低下したり、不安定になったりする場合があります。これはゲームエンジンの設計や最適化によるものです。
- GPUボトルネック: 極端なGPUボトルネック状態(例: 非常に高い解像度で最高設定など)では、CPU側のデータアクセス効率が向上してもGPUの処理能力が追いつかないため、効果がほとんど見られないか、わずかに低下することもあります。
- 安定性の問題: まれに、Resizable BAR/SAMを有効にすることでシステムが不安定になったり、ゲーム中にクラッシュしたりする場合があります。これは、BIOS、ドライバ、ゲームの組み合わせによる互換性の問題や、他のシステム設定との競合が原因である可能性があります。
パフォーマンスへの影響を確認する最も確実な方法は、Resizable BAR/SAMを有効にした状態と無効にした状態で、実際にプレイするゲームのベンチマークを実行し、フレームレート(平均、最小、最大)やフレームタイムを比較することです。
Resizable BAR / Smart Access Memoryのトラブルシューティング
有効化できない、または有効化後に問題が発生した場合のトラブルシューティング手順を説明します。
ケース1:Resizable BAR / SAMが有効にならない
GPUメーカーのツールやデバイスマネージャーで状態を確認した際に、「無効」と表示される場合、以下の点を順番に確認してください。
- ハードウェア対応の確認: 使用しているCPU、マザーボード、GPUがそれぞれResizable BAR/SAMに対応しているか、公式サイトで仕様を再確認します。
- BIOS/UEFIバージョンの確認: マザーボードのBIOS/UEFIバージョンがResizable BAR/SAMをサポートしているか、マザーボードメーカーの公式サイトで確認します。必要であれば最新バージョンにアップデートします。BIOSアップデートにはリスクが伴うため、手順を十分に確認し、慎重に実行してください。
- BIOS/UEFI設定の確認: BIOS/UEFI設定画面に入り、「Above 4G Decoding」と「Re-Size BAR Support」がそれぞれ「Enabled」になっているか確認します。設定項目名が異なる場合は、マザーボードのマニュアルを参照してください。
- OSの起動モードとシステムドライブの確認: WindowsがUEFIモードで起動しており、システムドライブがGPT形式であることを「システム情報」と「ディスクの管理」で確認します。MBR形式の場合はGPTへの変換が必要ですが、これはリスクの高い作業であることを理解し、代替手段(クリーンインストールなど)も検討します。UEFIモードへの変換は、マザーボードのBIOS設定でCSM (Compatibility Support Module) を無効にすることも関連しますが、これはOSの起動自体に影響する可能性があるため注意が必要です。
- GPUドライバの確認と再インストール: Resizable BAR/SAMに対応した最新バージョンのGPUドライバがインストールされているか確認します。一度ドライバをアンインストールし、クリーンインストールオプションを使用して再インストールすることで問題が解決する場合があります。
ケース2:有効化後にシステムやゲームが不安定になった、パフォーマンスが低下した
Resizable BAR/SAMを有効化した後に、ゲーム中にクラッシュする、ブルースクリーンが発生する、フレームレートが不安定になった、または以前より低下したといった問題が発生した場合、以下の対処法を試してください。
- Resizable BAR / SAMを無効にする: まず、BIOS/UEFI設定に戻り、「Re-Size BAR Support」を「Disabled」に設定して無効にします。これで問題が解決するか確認します。問題が解決した場合、原因はResizable BAR/SAMの有効化にある可能性が高いです。
- GPUドライバのダウングレード: 問題が発生するようになった時期よりも前の、安定していたことが確認できているGPUドライバのバージョンに戻してみます。最新ドライバが必ずしもすべての環境で最適とは限りません。
- ゲームタイトルごとの動作確認: 特定のゲームでのみ問題が発生するか、すべてのゲームで発生するかを確認します。特定のゲームのみであれば、そのゲームとResizable BAR/SAMの相性が悪い可能性があります。ゲーム内の設定を変更したり、そのゲームをプレイする際のみResizable BAR/SAMを無効にしたりすることを検討します。
- 他のシステム設定との競合確認: 最近、BIOS設定やOS設定、他のドライバなどを変更していないか確認します。Resizable BAR/SAMの有効化と他の設定変更が同時に行われた場合、原因の特定が難しくなります。他の設定を元に戻して問題が解決するか確認することも有効です。
- システムファイルチェッカーの実行: OSのシステムファイルに破損がないか確認するため、コマンドプロンプトを管理者権限で開き
sfc /scannow
コマンドを実行します。 - イベントビューアーの確認: 問題発生時にWindowsのイベントビューアーにエラーログ(特にシステムログやアプリケーションログ)が記録されていないか確認します。エラーコードやメッセージから原因特定のヒントが得られる場合があります。
有効化後に問題が発生した場合、必ずしもResizable BAR/SAMそのものが原因とは限りませんが、最も可能性の高い変更点として、まずこの機能を無効にして挙動を確認することがトラブルシューティングの第一歩となります。
まとめと推奨事項
Resizable BAR / Smart Access Memoryは、対応するハードウェア構成において、特定のシナリオでゲーミングパフォーマンスの向上に貢献する可能性を秘めた技術です。しかし、その効果は環境やゲームによって大きく異なり、有効化するためにはBIOS/UEFI設定、OSの起動モード、システムドライブ形式、そしてGPUドライババージョンといった複数の要件を満たす必要があります。
本記事で解説したように、Resizable BAR/SAMの有効化は単なるドライバ設定だけでなく、システム基盤に関わる設定変更を伴うことがあります。有効化に際しては、ご自身のPC構成が対応しているかを確認し、特にBIOSアップデートやMBRからGPTへの変換といった作業は、リスクを理解した上で慎重に行ってください。
また、有効化できた場合でも、必ずご自身の環境で実際にゲームをプレイし、ベンチマークなどでパフォーマンスの変化や安定性を確認することを推奨します。効果が見られない場合や、かえって問題が発生する場合は、無理に有効化せず無効に戻すことも選択肢として重要です。
ゲーミングPCのパフォーマンス最適化は多岐にわたりますが、Resizable BAR / Smart Access MemoryはCPUとGPU間の連携を強化する興味深いアプローチです。本記事の情報が、読者の皆様がこの技術を理解し、ご自身の環境で適切に活用またはトラブルシューティングを行うための一助となれば幸いです。